2021年3月ごろからニュースなどで伝えられた『ウッドショック』。おもにアメリカの木材高騰が原因で日本の輸入木材価格が高騰し、国内材も価格が高騰し、その影響は地方の製材所にも及びました。
当時はこれから夏という時期で、国内では木を切る時期ではなかったことも、国内の木材価格高騰に拍車をかけました。
ウッドショックとは?なぜ起こったか?
今回のウッドショックは、複数の要素が重なって起こったと言われていますが、大元はコロナが原因と言われています。
- コロナによるロックダウンで人の労働や移動が制限され、荷積み作業の凝滞、港湾のスペース不足、コンテナ不足が起こった。これにより、海上運賃などが高騰した。
- コロナ禍の外出規制、テレワークで自宅改修や郊外への転居・戸建ての建築など建築需要が世界的に高まり、木材不足に拍車がかかった。
- アメリカの超低金利政策により住宅建築需要が高まり、建材が不足した。
- 中国(=世界最大の木材輸入国)が、世界中の木材を高値で買い集めた。
- 安価な輸入木材への依存が一般化していた日本の住宅業界は大きな影響を受けた。
つまり、コロナに端を発した木材の価格高騰による世界的な木材の取り合いの中で、木材自給率3割ほどの日本にあって、輸入材を前提とした国内住宅建築シーンがもろにあおりを受けてしまったと言えます。
歴史的に見ればウッドショックは日本では過去に3回起きています。
ウッドショックの今〜木材価格は高止まりから下降へ
ウッドショックのピークは越え、国内での木材価格は高止まりか緩やかに下降しています。輸入木材の量は増加していないので、国内供給体制が整ってきたと考えることができます。
実際、令和5年4月時点で、素材価格は前年比1〜2割下降し、木材製品価格は前年比2〜3割下降しました。
木材製品価格は、2021年6月ないし7月から2022年7月頃まで高止まりでしたが、2022年8月頃から下落傾向に転じました。素材価格も2022年2月頃から下降傾向が見られます。
国内でウッドショックが起こったのは2021年3月頃でしたので、それから2年半経ちました(現在は2023年9月)。その間に、これまでの輸入材ありきの状況から、国産材の安定供給体勢ができてきたということになります。
ただ一方で、ヒノキを中心に切りすぎたために、今後の供給安定のために切り出しを手控える動きも出ています。価格正常化のため、原木が滞留するケースも起こっています。木材も魚や野菜と同じで、少なければ高騰し、多すぎると価格が下落し、採算がとれなくなります。また、採れる量は長期的に決まっています。ウッドショックで一時的に不足したからといって、林業計画を逸脱するような大量伐採を行えば、ゆくゆくは供給できなくなる恐れもあります。
その傾向は杉ではそこまで顕著ではありませんが、ヒノキでとくに見られるということです(山梨県の場合)。
ウッドショックと国内の林業
今回のウッドショックは、国内林業・木材生産にとって好機と見る人が多いようです。
当初、ウッドショックで木材価格の高騰が起こったからと言って、簡単に国産材の供給を増加できるわけではないという意見もあった中で(例 https://miraisozo.mizuhobank.co.jp/life/80467)、実際にはウッドショックの1年後には国内需給体勢はかなり整ったと言われています。
短期間でも国内木材供給の状況は変わることが分かった意味では、ウッドショックは日本の林業の力量、対応力を判定する試金石だったかもしれません。しかし、そう話は簡単ではないようです。国内の林業を持続可能なものにしていくには、国内林業のコストに見合った流通金額の下、木材自給率を高めていく必要があります。
日本の林業には、外材との競合、価格維持、人手不足、日本の山の急峻さ、管理コストなどの問題があります。なかでも大きな要素は生産コストと流通価格です。「適正」な木材流通価格が日本の林業では非常に大事になりますが、木が育つのは何十年と時間がかかるので、約束された未来の価格が見えなければ、山林経営者は植林、育林計画を立てにくいのが現実です。
低価格な外材前提で国内の家づくりや土木工事が成り立つのは市場経済社会で当然の流れですが、国内の木を育て木材として循環していくことを考えるとコストに見合った相応の価格での流通が必要です。今は一時的にウッドショックで木材価格が上がっていますが、今後また安価な外材が安定して入ってきて木材価格が安くなる可能性が高いです。
国や地方自治体からの補助制度も大切ですが、補助金ありきではなく、国内流通価格をいかに適正にしていくかを、長期的な政策視野の下で進めていく必要がありそうです。