八ヶ岳南麓にあるかばん製作アトリエ、yohn (ヨーン)さん。
かねてより当社より材をお求めいただき、今回「木を取り入れたかばんを作っている」と教えていただいたので、小淵沢にある工房に伺いました。

帆布のかばんを仕立てる
yohnさんは帆布かばんをはじめ帆布製品を製作しているアトリエです。
「帆布(はんぷ、ほぬの)」とは、綿や麻を平織りにした厚地の布素材。もともと船の帆や幌馬車の貨車の覆いに使われていただけあって、長期間の使用にも耐える丈夫な生地です。



すべて日本製の帆布を使用。その心地よい手触りと落ち着いた色彩で日々の装いにもそっとなじみます。仕事や週末の普段使いにも、大切な方への贈り物にも良さそうです。

重いものを入れても型崩れしにくく、実際に仕事用バッグとして使う人も増えています。カジュアルからアウトドアシーン、ビジネスシーンまで、さまざまなかばんのオーダーを受けるyohnさん。帆布生地の特性を活かし、企画・デザイン・製作まで一点一点手作業で仕上げます。



ビビットな色からパステルな色まで、厚みや手触りが異なる帆布生地を多数取り揃えています。
色がそっと組み合わさって、心地よい存在感を帯びる。

どれも、「静かに個性が光る」という感じ。
控えめながら洗練されている。シンプルだけど新しいデザイン。軽やかだけど存在感がある。
相反する価値が表裏一体になることはあります。

かばんを作り始めたきっかけ

かおりさんがかばんを作り始めたきっかけは、「家族のために作ってあげたら喜ばれたから」でした。
教員をしているお兄さんはたくさんの教科書を日常的に持ち歩くため、かばんがすぐに破れてしまったそうです。そんなとき、帆布でかばんをつくってあげたら、何年も破れず好評でした。そのあと、大工をしていた耕一さんにも道具入れを作ってあげたら「長持ちする、よくなじむ」とこちらも好評。
その後、友人にも頼まれて作るようになり、今の形に。高根(山梨県北杜市)で11年ほど自宅兼アトリエでやったあと、3年前(2022年)にここ小淵沢にアトリエとショップを構えました。
かおりさん——帆布のかばんは、使ううちになじんで、綿ならではの自然な風合いが出てくるのがいいですね。帆布にもいろいろ種類があって、厚さも加工もそれぞれ違うんです。蝋(ろう)がかかっている帆布は撥水効果が生まれて、軽いのに自立します。蝋をかけずに洗うなど加工にもいろいろありますが、「蝋をかけてさらに洗う」という加工が私は割に好きですね。なぜかというと、帆布のかばんは使う方の癖で徐々にすれ跡や劣化の痕が目立ってくるものですが、最初から洗ってしわっぽくなっているとその変化が目立ちにくく、自然な風合いが現れてくるからです。それが好きなんです。
丈夫だから使いはじめた帆布。その素材の奥深さに魅了されていったわけですね。
一方、当時、建築のお仕事をされていた耕一さん。釘を使わないで木組みの家を建てる大工として、日本家屋の建築や北アルプスの山荘建築(雲ノ平山荘)にも携われてきました。そんな折り、かおりさんが始めたかばん工房が忙しくなってきて、耕一さんが手伝うようになります。
かおりさん——木工の人って、ものすごく細かくて。一本線を引いたら、その線の内側か外側かどっち側を切るの?というくらい緻密な世界なので、私だけでつくるよりもかばんの精度があがりました。それでスカウトして、いっしょにやってもらうようになりました。
今は完全分業で、2人それぞれがデザインして、夫が型紙を作って、布を裁断して、革の処理をして、折る、それを私が縫う。手伝いに来てもらってるスタッフさんにも協力してもらいながら、込み入ったリュック等も構造を考えて仕立てることができるようになりました。
「売ってない。けど、ほしい」というオーダーの中には、私一人では尻込みしてしまうような複雑なご依頼もありましたが、分業してからはそれをあまり考えなくてよくなって、チャレンジできるようになりましたね。

そのチャレンジの一つがこれ。きっかけはお医者さんからのオーダーで、「デスクの脇に置いても自立して、カルテがどんどん取り出せる、ポケットも多く、必要な道具が入れやすいかばんがほしい」
使い込んでも倒れない構造にし、サイドポケットから物が取り出しやすい形にし、また床に置いても汚れないよう脚の鋲にも工夫を施しました。


「建てる」と「仕立てる」
もともとかおりさんも劇場や舞台を建てるお仕事をされていました。「建てる」仕事に関わってきたお二人。今は「仕立てる」仕事をしています。
「仕立てる」は、背広にもかばんにも建物にも使われる言葉で、相手や状況に応じて人の手で丁寧に整える・仕上げるという意味があります。そのために必要な技術を身につける、という意味もあります。
単に一時の動作を示す動詞ではなく、それより前からの時間やベクトルを含んだ動詞。
「作る」という言葉があるのに、それとは別にこの日本語が生き続けたのはなぜか?お二人のお話を聞いていたら、それがすとんと分かった気がしました。
以下の木のかばんのこともそう。

耕一さん——木の端材があるので、補助的に木を使おうかなと。
木の取っ手のかばんは見たことがありますが、このように本体部分に縫い付けるのは見たことがありません。
かおりさん——夫が木の仕事してたので、木と帆布のかばんができたらいいなって思ったんですけど、まさか手縫いでやるとは思ってなかったんです。鋲で打つとか、もうちょっとシンプルなものをイメージしてたのですが、夫に任せたら、木に穴を全部開けて、一針一針縫い合わせるような形になりました。
耕一さん——僕としては多分大変になるだろうな、というか手間がかかる仕事になるので、当初は自分の発想にはなかったです。でも実際やってみると、楽しいというのと、やはり苦戦しているのとで、今も挑戦を続けています ・・・

見たこともないパーツが並びます。

薄く削った縫い付けの部分を『実(さね)』と呼ぶ耕一さん。木の刻みや接ぎの技法を知っているからこそ、チャレンジできるアイディア。古民家の梁に残されたちょうなの跡のようですね、と私が言うと・・・
耕一さん——そうなんです。大工のとき「ちょうな」を使っていたんですよ。手跡を残しながら仕上げられるのがいいところですね。反りがんなで仕上げたり、両っ面(りょうっつら)の平らを出す太鼓引きの場合は、ちょうなはそんなに必要ないと思いますが、材としての無駄がでやすい。どう形を作るかというときに、自然と「ちょうな」が思いつきましたね




このかばんを作るために必要な型紙。

技があってその技をどう見せるか?、ではなく、材料があってその形や質をどう活かすか?そのために適宜、技が用いられる。
古民家の石場建てで「光付け」という伝統技法があります。礎石の表面の形状に合わせて木の切り口を刻んで、直接ケヤキなどの重要な柱を石の上にぴったり置いて立てることを言います。そういう技がここにも活かされていると感じました。それが石ではなく、かばんということにはなりますが。
耳に残ったのは、「材としての無駄がでやすい」とか「木の端材があるので使おうかな」というお言葉。
素材を活かしたい。材料を無駄にしたくない。
耕一さんもかおりさんも、材料をなるべく無駄にしたくないという気持ちが強いのですね?
かおりさん——最初から変わらないことですが、「素材を活かしたい」って気持ちがあります。帆布はほとんど綿と麻なのですが、それを育てて糸にする人から、どんどん受け継がれていって布になります。最後の仕立ては私たちが担うので、いろんな手が重なり合って、私たちが最終工程を渡されたという意識が昔からあるんです。だから、その布を無駄にしないように大事に使い切りたいという気持ちがあります。「ココロのかばん」は細かなパーツを使い切りたくてデザインしたかばんなんです。

yohnさんのインスタはこちら: https://www.instagram.com/yohn.hanpu
今のように資本を中心とした社会ができあがる前は、人は目の前の素材に向き合って「考えて作る」行為をしてきました。目の前の素材は限られていて、今みたいにポチッとすれば材料が届く時代ではなかったから、その場の即興が求められたはず。
答えはほんとは目の前か足下にある。でも、それを見つけ出すのは簡単ではない。そこには、「素材はいくらでもある、やり直しができる」という感覚よりも、「素材はこれしかない、今しかない」という感覚の方がうまく効くんだろうな、と。うまく言えませんが、取材を通じて、そんなことを感じました。お二人は、そんな昔からの人間の営為を続けているんだなと思いました。
以上、yohnさんに伺ったお話でした。かおりさん、耕一さん、どうもありがとうございました。

帆布かばんyohn
所在地: 〒408-0041 山梨県北杜市小淵沢町上笹尾1165−1
電話番号: 0551-30-9358
インスタ: https://www.instagram.com/yohn.hanpu
HP:https://yohn.biz
マップ: