今日は昼に韮崎市立図書館で本を借り、そのあと近くのabe椅子店へ。以前から気になっていましたが、お店に入るのは今日が初めて。
無垢の椅子、リビングチェア、アームチェアを制作するabe椅子店
abe椅子店さんは、無垢の椅子やリビングチェア、アームチェア、カッティングボード(まな板)、お皿、バターナイフ、スプーンなどを制作・販売しています。
お店に入り、まず目についたのがこの椅子。
曲線の美しい、を持つ椅子
制作者の阿部公則さんもお店にいらっしゃいました。
並んでいる椅子はサイズがどれも少しだけ違うようだったので訊ねてみると、「体格に合わせて椅子の幅や座面の深さを少し変えています。座り心地を確かめてここにある商品を買われていく方と、自分の体格にあった椅子をオーダーで作られる方といらっしゃいます」とのこと。
商品は、くるみ、なら、くり、とちなどの無垢の材が使われ、着色せずアマニオイルで仕上げています。
自分の体格に合いそうな椅子を阿部さんが選んでくれて、その椅子に試座。
座面は骨盤の当たる部分が深くくぼんでいて、木の硬さを感じません。フィットしているというより、包み込まれる感じ。あまり味わったことのない座り心地でした。
腕をアームに載せると、アームの広くなった部分(上の写真の膨らんでいる部分)が肘(ひじ)を自由度をもって受け止めてくれます。「椅子」と「自分」という構図が、「椅子+自分」と「前にみえるもの」へ切り替わります。
デザインを追求することと座り心地を追求することは同じ作業か、違う作業か。硬い木だから実現できる流れるようなフォルム。
「曲線がすごいですね。やすりで磨いてこういう形をつくるんですか?」
「基本的にこの形はカンナでつくります」
どんなふうにカンナをかけるか、阿部さんは手振り身振りを交えて丁寧に教えてくれました。複雑な曲線加工を作り出すために、いろいろな種類のカンナを使うそうですが、そのカンナの手入れ、とくに刃の研ぎは大事な作業とのこと。
そのあと、曲面出しという行程を説明してくれました。曲面を削り出すのは南京かんなで、荒削りから仕上げまでに4本の鉋(かんな)を使い分けるそうです。
「鉋跡を残さないくらいの気持ちで仕上げてます。でも、残りますが。表面をツルツルに仕上げる場合は180番のサンドペーパーで鉋跡を消します。でも、最近は鉋跡をあえて残して仕上げとしています」
(なぜですか?)
「古民家の梁にちょうなの跡が残ってるのと同じで、仕事の手跡とでもいうんですかね。味わいというか。塗装はアマニオイルを木地に塗り、400番の耐水ペーパーでオイルと研ぎかすを木地に研ぎ込んで、拭き取ります。2週間程したら同じ行程を1000番の耐水ペーパーで行います。完全にオイルが酸化し、塗幕をつくるのには1〜2ヶ月かかります。私の場合、木地は極力刃物で仕上げるということです」
椅子とデザイン
お店を後にし樋口製材へ戻る道すがらも、あの椅子の曲線は頭に残ったまま。
こんなことを考えました。オーレ・バンシャー、ハンス・ウェグナー、フィン・ユール。昔、デンマーク人が作る椅子が世界のデザインを牽引しました。彼らは、直線や曲線にこだわってるわけでもなく、ただそうあるべき形に近づけるために、堅い木に何万回もカンナとヤスリをかけ続けたと思います。形ができては捨て去り、手元に残るかすかな予感を頼りに。
そうして出来た形の迫力と説得力は合理的に説明できる類いのものではないし、作り手側でさえ説明できないかもしれません、それを結果として受け止めることはできても。
でも、彼らがつくった形は今も私たちの生活、衣服や車の運転席や会社オフィスやITデザインに根を下ろしている気がします。あなたたちはいったいどこからそれを見つけたんですか。
abe椅子店さんの椅子を見て受けた心象もそれに近かったです。
もちろんバンシャーやウェグナーの椅子とは素材もデザインも違うので、デンマークの椅子のイメージをここで持ち出すのは自分の見当外れかもしれません。ただ、デザインを生み出そうとする『切迫』が、自分にデンマークを思い起こさせました。
地球のどこにいても重力が人を同じ土俵に乗せます。土地としては何万キロも離れていても、デザインにも摂理(万象を支配している法則)が存在していて、人がものづくりに向き合うとその人たちを同じ土俵に乗せるのでしょうか。
一方で、abe椅子店さんの椅子には力強い佇まいも感じられました。そこには土地の記憶があるのだと思います。阿部さんが言った「古民家のちょうなの跡のような」という着想も、その一つかもしません。
ちなみに、前述のハンス・ウェグナーはデンマークの家具デザイナーで、彼が1943年にデザインした「チャイニーズ・チェア」は70年以上経った今も、Yチェアの名で世界で愛され続けています。Yチェアの着想を彼は、中国の明の時代(明朝、1368~1644)に作られていた圏椅(クワンイ)という椅子から得ました。
abe椅子店さんの情報
OPEN:木~土 11:00~16:00(不定休あり)
お問い合わせ:080-5499-6595
山梨県韮崎市中央町12-6
facebook: https://www.facebook.com/abeisuten/