山梨県北杜市でご自身で家を建てているという方が樋口製材で材を買われた。ご自身で基礎から構造材の刻み、組みまでやるという。
樋口製材で挽いた材が実際にどのように使われているか知りたくて取材申し込み。快諾いただいたので、さっそく現場に伺った。
目次
平屋、太い柱、大きな屋根
甲斐駒を正面に見ながら小道をすすむと、木々の間から建築中の平屋の家が見えてきた。
太い柱と大きな屋根。一見すると、和モダンを得意とする設計事務所が手がけたゲストハウスのよう。
屋根の傾斜は緩く、その理由はのちに知ることになる。
家づくりの経緯
家づくりはご夫婦で行っていた。
ご夫婦とも美大彫刻科卒で、彫刻を中心に作品を創られているという。アトリエも兼ねて長野で古民家を探していたが、たまたま訪れた山梨のこの地が気に入って、今年初めに土地を購入。自分たちで切り開き、家を建て始めたという。
まずはじめに建てたのが6畳一間のこの素敵な家。3ヶ月ほどかけて建て、ここを仮住まいにしながら、本住まいの家を建てている。
家の建材は杉、檜にしたかった
建材の多くは山梨県産の檜(ひのき)。檜でない部分は、野地板(杉)と一部の梁(アカマツ)だけ。
材はすべて樋口製材から購入。旦那さんは「檜のフローリングはさすがに高いかな」と思っていたが、「樋口製材に相談したら意外に檜が安く、結局フローリングも全部ヒノキで購入した」とのこと。できるだけ国産の無垢材を使いたくて建材屋さんを探していたところ、ネットで樋口製材のHPを見つけ、実際に訪れたところ「県産の杉・檜が揃っていた」。
「他のところの杉材の値段で樋口さんだと檜が買えたりとか。檜は贅沢品と思っていたんですけど、それだったら檜使おうかなと」
奥さんが柱や梁のホゾの刻む担当
奥さんが柱や梁のホゾを刻む担当だったという。
ノミや工具の扱いに慣れていたのは、彫刻作品の制作で使い慣れているから。「ノミ仕事は妻の方がうまい」と、旦那さん。
それでも材を刻むのに2ヶ月かかった。作業スペースは、基礎をやったときに出たベニアの廃材で囲って、上にビニールシートをかぶせて確保した。
土壁は敷地内の赤土に藁を混ぜて手作り
こちらは土壁素材を敷地内で作っているところ。赤土を藁と混ぜて発酵させているという。
たまたま赤土が敷地内から出てきたため、家の壁の素材にすることに。バックホーで掘って一カ所に集めて発酵後、試しに固めてみたところ、しっかり固まったので「これなら、いける」。
真壁にすると思いきや、大壁にするというので筆者はびっくり。大壁といえば、蔵やお城に使われる、柱をも覆う左官塗り。古民家でさえあまり見られない塗りだ。なぜ大壁にするのか理由を訊ねた。
「土倉が多くある風景が好きで、昔からかっこいいなと思っていました。もともと粘土も好きで、家を建てる前から土で大壁にすることだけは決めてました」
断熱材も使わず、土壁の厚みを出して断熱効果を出すことに。
真壁の中に断熱材をいれる、木の板を張る、など壁の施工は様々だが、あえて自然素材だけの「土の大壁」を選んだところに、旦那さんの覚悟を、さらに迫力さえ感じた。一見チャレンジングだが、十分な思慮の下に手堅く進めている印象だ。
試験的に作った土壁ボールは触るとカチカチ。藁がつなぎの役目を果たし、強度がある。手で握り力を入れて潰そうとしても、まったく崩れない。
このような知識はどこから得られたのか質問した。
「本とネットで調べるんですけど、いろんな情報を吟味しながら、これでいける、っていうレベルまでたどり着くのに結構疲れました。ネットもいいですが、やはり本の方が情報が詳しくて正確ですね。それから、材木のことなら樋口製材、コンクリートのことは生コン屋さんなど、専門の方と話す機会があれば、わからないことを質問して、いろいろ教えて頂きました」
一見意味がなさそうな(大事でなさそうな)でもあとから大事になってくるポイントは多い(たとえば竹木舞の欠きこみや、土壁の発酵で藁を十分に入れることなど)。細かな部分でも、その意味を一つずつ理解しながら準備を進めたことが伝わった。
作品に嘘をつきたくないから、暮らしにも嘘をつきたくない
「うまく言えてるか分からないですけど、生活も作品の続きなので、どちらも地面と繋がっているみたいな意識でやりたいというのがずっとあって。彫刻で使う粘土、この土地で取れた土、なぜか惹かれる土という材料で家を作って、そこで生活することで、もっと地面に近づいて制作できるような気がしています。生活に嘘ついたら、作品も嘘ついて創ったみたいになっちゃうかなって」
そう話してくれた奥さん。その横で「見て!見て!」と自分の道具を得意げに掲げて叫ぶお子様(2歳)。
屋根に気軽に登れる家
傾斜が緩く、低く広い屋根は家に存在感を与えていた。
屋根がオシャレですね、と伝えると、「屋根にのぼりたくて、なるべく低くしました。屋根の上でゆっくりしたいなと思って」と奥さん。
木製建具は奥さんの実家から譲り受けたもの。その建具に合わせて家の設計図を作ったそう。
プレカットではなく手刻みを選んだ理由
当初はプレカットも考えていたが、手刻みを選んだという。
その理由は、
1 プレカットにするためには図面を詰める必要があり、「設計が素人の自分には図面を詰め切ることができなかった」。
2 譲り受けた木製建具を活かすため、それに合わせた設計をしなければいけなかった。
3 貫を柱などに貫通される部分がプレカットではできなかった。
まとめ
大きな屋根、手刻みの柱と梁、大壁の構想。建築中ではあったが、私は自分がそこにいることが心地よかった。なぜだか思想という言葉が何度か浮かび、取材後、自分のこれからの暮らし方について考えた。やれることは限られてるかもしれない。でも、何を選択するかは自分で決めたい。
ご夫妻、取材へのご協力、誠にありがとうございました。完成を楽しみにしています。
樋口製材 WEB担当 小田和