
山梨県北杜市武川、20号沿いに事務所(兼モデルハウス)と工場を構える鈴木工務店さん。長年、樋口製材で挽いた材を使っていただいています。
今回、棟梁の鈴木直彦さんにお話をお聞きしました。
墨を出して、材を手で刻む。伝統工法で家を建てる
鈴木工務店は、今は珍しい「手刻み」で家を建てます。
墨を出して、材を手で刻む。伺った際も、工場で墨の付いた材をカンナやノミで削っていました。

手で刻むから柔軟に対応できます。たとえば太く曲がった梁を自在に現しに使います。
このような設計は規格から外れる材を取り入れる必要があるため、短納期の建築では設計に取り入れにくいのではないでしょうか。しかし、昔はこれが当たり前でした。
昔の技を受け継いでいるから、希望の間取りや美しいデザインを斬新に実現しやすい。ふつうなら「フルカスタムオーダー」と言われそうな施工も、鈴木工務店さんなら標準仕様です。

「昔の人の知恵は確かだよ」
そう話す棟梁に厳しい雰囲気は感じられません。終始、柔らかな物腰と優しげな話し方が印象的。
「ツーバイフォーのように短期間で建てるのもいいし、その土地に生えてる木を使って昔からのやり方で建てるのもいい。いろいろだよ」
木の力を活かす
伝統工法は、日本古来からの木造建築技術で、木組みの力で家を支えるのが特徴です。金物をほとんど使わず、木と木を「ほぞ」や「込み栓」などの継手や仕口で組んでいきます。

「木を組む」ことで木の強度を最大限に発揮させ、長持ちする家ができあがります。
スギ、ヒノキ、クリ、ジマツ、ケヤキなど樹種ごとの特性を知り、どこにどの木を使うか?木の水分はどうか?といった木の性質や気候条件、季節に応じた木の乾かし方まで理解してはじめて行える、「技の裾野が広い家づくり」と言えます。
時間をかけて一棟を刻む
そのときにどんな木材が手に入るか?それは山の状況次第。
鈴木工務店さんは、その出会いを受け入れます。もともと乾いている材も使いつつ、新たに手に取る木を乾燥させる間に図面や整地の作業を進めます。
そのため、一棟建てるのにどうしても時間がかかる。設計で半年から1年、それから家を建てるのに1〜2年かかるケースも少なくないそうです。それでも待っている方が多くいるのは、寄せられる信頼と期待の大きさの表れ。
短納期で家が建つ時代に、1棟にじっくり時間をかけて建てるのは非効率的に見えます。棟梁にそう尋ねると「それしかできないしね、それでいいかな」と一言。
「自分たちが刻めば何分かかる。大工によって5分かかる者もいるし、10分かかる者もいる。その大工の仲間でだいたい平均の時間を出して、工期と金額の根拠を出そうって数年前から進めてるよ」
手で刻めばプレカットではできない刻みもできるようになる。しかし手作業だから、その分費用がかかる。だから、工期と金額のことをお客さんに納得してもらうことは、伝統構法を後世に伝える上でも大切なことです。

棟梁のもとには若手のお弟子さんがいます。
伝統構法を体得できる場は、今となっては貴重な場。これまでお弟子さんが何人も独立されていて、そんな職人さんたちと今もいっしょに一つの家を建てることがあるそうなので、「競争」ではなく「協力」で技を次世代に伝えている、ということが言えます。
「材の乾燥」に向き合う

木の香りが漂う事務所で、こんな取り組みも見せていただきました。

この写真は、鈴木棟梁が40代のときに、木材を水中に沈めて、乾燥がどの程度進むかを実験したときのものです。「水中貯木」と言います。
「伊勢神宮では200年、400年の木を池につけるんだよね。宮大工の話では、水につけておくと芯からゆっくり乾く、表面は濡れていても中は乾いていく。昔の技はすごいですよ。私も田んぼを掘って水を入れて木材を浸けて、どのくらい重さが変わるか実験してね。2トンくらいの木材を水に入れて、2、3年後に上げた時に、たしかに芯が乾き、そのまま使っても反らなかった」
水中で乾燥させると木材が締まり、刻みやすくなるそうです。また、乾燥がゆっくり均一に進むため、ひび割れや反りが大幅に押さえられる利点があったそうです。
木材をつけていた水の水質検査でも問題ない結果が出て、周囲に影響を与えるような物質は溶出していないことも確認しました。

こういうデータもまた、後世の人にとって貴重なデータですね。
HPから伝わるワクワク感
鈴木工務店さんのホームページで紹介される施工例にワクワクします。
こちらのケースでは、「庭に生えている木を家に使いたい」という施主さんの要望を受け、敷地内のスギやアカマツ、数本を切って家の構造材に使いました。天然乾燥でしっかり乾かしてから使いました。ここまで丁寧な対応をしてくれるなら私の家も作ってほしい、と感じる方は多そう。
「着工が始まって、打ち合わせ当初よりどんどんよくなっていった」という施主さんのコメントもいいですね!
神社仏閣の修復
在来工法の技術は一般住宅だけでなく、寺社仏閣の修復にも活かされます。
本格的な刻みが求められる寺社建築ですが、鈴木工務店さんでは彫刻の復元や古材の再利用を行い、地元の寺社建築を請け負います。
取材に伺った時には、地元の大師堂を再建している最中でした。







この破風板、一枚板で作るには二尺(約60cm)の幅が必要でしたが、これは樋口製材にあったヒノキの大径木から挽きました。その原木がこちら。

たしかに数ヶ月前、樋口製材の社長が言っていました。
「すごいいいヒノキが入った。これだけいいものはめったに入ってこない」
地元の材を使う
地元の木材を使うことにこだわる棟梁。
日本の風土に合った木材を適切な時期に伐採して家を作ることは、住む人にも地域にも無理がない持続的な形です。




そんな鈴木さんは長年、「木の家ネット(https://kino-ie.net)」に長年参加しています。
木の家ネットとは、「国産材」と「持続利用が可能な素材」で建てる木造住宅文化と技術を活かす職人たちの集まりです。
「『込み栓』だけでも夜中2時まで話すよ。四角がいいか、丸がいいか、スギにはこの込み栓がいい、ヒノキにはこの込み栓がいい、とかで話が盛り上がる。栓だけ強くてもだめで、木よりちょっと強いくらいがいい。栓が強いとひしゃげちゃう。弱いと栓が壊れちゃう。そういう話をするの(笑)」


「他で覚えたのかもしれないけど、うちに来て、たまに失敗すればうまく直す。でも見れば分かる。そういうふうに直したら、そこの家行くたんびにそこを見て、『あそこが』って一生自分で思うんだぞって。 そうじゃなくて、それだったら、やり直して取り替えればいい。ほぞ穴間違えたら埋木なんてするんじゃなくて、基礎を外して新しい柱にすればいい。1年のうち、1回か2回か、5回行く家もある。ごまかせば、そこに行くたびに見て、ああ、治しておけばよかったってなる。 そう思ったら最悪じゃん。100%は絶対無理だけど、九分九厘自分で納得できる仕事をしないといけない」
効率や利益を優先する現代社会において、手間ひまをかけて質の高い家を建てることは、一見時代遅れに見えるかもしれません。でも、鈴木工務店さんが取り組んでいることには、100年、200年先にある暮らしや消費のあり方に重要な示唆を与えているように感じました。
「単なる職人」と謙遜する棟梁ですが、言葉ひとつひとつに迫力がありました。
