家の建築や家具製作に使う木材。その乾燥は重要なステップです。
用途によってシビアに求められる木材の乾燥。精度が求められる家具や家の特定の部材では、しかるべき乾燥を経てなければ、製品のゆがみやよれ、曲がり、カビなどにつながります。広葉樹と針葉樹の違いでも乾燥のしやすさは異なります。
一方で、乾燥機が無かった昔から職人たちは経験や感覚で用途ごとに必要となる乾燥度を把握し、必要なら何年でも材を寝かして使い分けてきました。それは人の手間と知恵が試される場面のひとつでしたが、効率が重視される今の時代には合わないようです。
実は乾燥の仕方によって材の強度やツヤが変わることをご存じですか?
目次
乾燥の種類には天然乾燥と人工乾燥の2つがある
乾燥には2種類あります。天然乾燥と人工乾燥です。
昔の製材所での乾燥と言えば天然乾燥が主流でしたが、現在は人工乾燥機を置いている製材所が多いです。材の乾燥を時間短縮でき、季節を問わず低い乾燥度までもっていけるためです。
ただし、人工乾燥機は電気代もかかるので、挽いた材全てを人工乾燥機に入れるわけではなく、お客さんの要望や材の用途に応じて人工乾燥と天然乾燥を使い分けているのが現状かと思います。
人工乾燥
人工乾燥とはヒーターやファンを備えた大型の装置である人工乾燥機に木材を一定期間入れて、強制的に乾燥を促すことを言います。人工乾燥には以下の種類があります。
低温乾燥
低温乾燥は50℃以下で乾燥させます。材の油分や木の香り・本来のツヤを残し、色の変色を抑えるのに適します。
中温乾燥
中温乾燥は80℃以下で乾燥させます。
高温乾燥
高温乾燥は90℃以上で乾燥させます。短期間で仕上げて大量供給する場合、高温乾燥が採用されます。
高温乾燥(人工乾燥)と強度・つやについて
一概には言えませんが、不適切な高温セット処理(温度と時間)によって部分的に内部破損、内部割れが発生し、製材の品質が低下したり強度が低下する可能性が指摘されています。具体的には、セット時間が長くなるにつれ、材の強度劣化や内部割れが増大し、剪断強度が低下する恐れがあることが報告されています*。
*高温セットが材の強度劣化に及ぼす影響(群馬県林業試験場研究報告、2019年)
また、淡い紅色を帯びた色味に価値がある吉野杉は、人工乾燥だと色味が暗くなってしまうため、建築材でも造作材(家具など)でもほとんどが天然乾燥によるものであり、人工乾燥は避けられる傾向があるとのこと。研究結果でも、以下のように報告されています。
人工乾燥されたスギは天然乾燥に比べて暗色化し、特に辺材早材部において顕著。高温セット処理を伴う乾燥条件では、赤みが選択的に低減して、辺材部が暗化して黄みを増すため、辺心材のコントラストが小さくなり材色が単調になる
木材学会誌(59)p.339-345 (2013)「乾燥条件の異なるスギ正角材表面の精密測色(第1報)」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwrs/59/6/59_339/_pdf
一方、全国的には人工乾燥により乾燥された材が構造材として使われることが多く、背割をしない材でも表面部れを起こさない人工乾燥処理技術ができるなど、人工乾燥自体は広く普及しています。
天然乾燥
天然乾燥とは、ある程度粗く挽いた材を外に置いて自然に乾燥させることを言います。
メリット
- 木材本来の照り(つや)や経年変化、香りを生かせる。
- 椅子や家具のための材は精密な精度が求められるため、数年の天然乾燥で材を落ち着かせる方法がとられることが多い。
デメリット
- 乾燥時間がかかる。
- 季節により乾燥にかかる時間が変わる。
- 人工乾燥のように含水率が下がらず、よれたり伸び縮みする可能性がある。
好まれるシーン
在来構法の家づくり、家具づくり、寺社仏閣など
天然乾燥は時間がかかりますが、木本来の色味やツヤ、油分、香り、強度を活かせます。造作用のクリ、ナラなど材によっては数年の乾燥を求められることもあります。
法隆寺を代表に各所の寺社仏閣など今に残る古(いにしえ)の建築物が天然乾燥によって立てられています。天然乾燥が材本来の強さや美しさを活かす最も理想的な乾燥法である、そう時間という審判者が証明しているようですが、ただ今の忙しい時代にはゆったりしすぎた方法かもしれませんね。
以上、材の人工乾燥、天然乾燥についてでした。
人工乾燥する場合でも木本来の強度やつやを維持する乾燥方法が模索され、また、お客さんの要望や材の用途に合わせて天然乾燥も今でも広く使われているのが現状のようです。